2015年11月21日土曜日

225. 桜井市吉隠、鳥見山から仏教伝来の地

「アカシア紀行・俳句」 2015年11月19日(木)    前へ   次へ

 数日続いた雨模様が止んだ11月下旬の一日、いつものメンバー6人で、
初冬の景色などを訪ねて、桜井市の吉隠(よなばり)などに行きました。

 吉隠は、桜井市北東部の地区で、天武天皇の皇子、穂積皇子の歌、

  降る雪は あはにな降りそ 吉隠の
            猪養(いかい)の岡の 寒からまくに

 で万葉集(巻2-203)に出てくる古くからの土地です。

 (但馬皇女が和銅元年(708)6月に亡くなってから、幾月か経た雪の降る日に、
  皇女が眠るお墓を遥かに見て悲しみ泣きながら詠んだ歌)

 国道165号線の長谷の東の吉隠交差点を北上、坂の集落を800メートル程登ると
小さな無住寺「極楽寺」があります。
ただそのお寺は、道路の右へ(南へ)降りる坂道にあるため車で行けなくて、
坂で迷っていたら、地元の70才位の男性がたまたま来られて、
境内入口を教えていただきました。(実生の楓を探しに来たとのこと)

 境内に入ると小さな本堂があり、猪のもぐら探しの跡でしょうか、地面のあちこちに
泥土がめくれていました。

         (吉隠の極楽寺:クリックで拡大:以後同じ)     

 男性によると、極楽寺は10年位前に無住寺となり、本堂の東にあった庫裏は
撤去されたとのこと。 吉隠は48軒位に減り、人口も170人位になったようです。
お墓は昔は山の上の墓地に土葬し、本堂の左手、裏手にある石塔は、
お参りするための場所(卵塔場(らんとうば))だそうです。
土地の人々は次第に墓地を集落外に移しているようです。 

 本堂右の阿弥陀堂に2つの石仏、左の石塔群の前の庚申堂に、6手の観音のような
お像が祀ってあります。 

 昔は10位の庚申講があり、それぞれお祀りをしていたが今は一つか二つの
庚申講が年一回お祀りするだけだそうで、お堂の屋根の下の隙間にあった
葉付きの木の枝に祈願文のような文字が書かれていました、

 男性が、本堂裏の軒にある葬儀用の輿2台を見せてくれました。
今は使われない、お棺を山上の土葬地に4人位で運ぶための長い輿です。

 男性が帰られたあと、本堂の外から合掌し、境内の大きな楠や楓紅葉などを見て、
お寺を辞しました。
但馬皇女のお墓の場所は今は不明ですが、男性に推定地などを聞くのを忘れました。

       吉隠の寺に一樹の冬紅葉     常朝

       吉隠の姫墓いずこ冬の風     常朝

         (極楽寺の紅葉)
         (庚申堂)

 その後男性から「紅葉と見晴らしが良い」と教えてもらった鳥見山公園を訪ねました。
吉隠からは一旦165号線に降りて、約2キロ東の西峠を北上、警察署の先を左折して、
鳥見山に登ります。標高750メートルもある山の公園で、広場の西に神武天皇ゆかりの
鳥見霊畤(とりみれいじ:天皇の祀りの場所)や、神社の鳥居と池、南に展望台があり、
池の周囲では紅葉が見事でした。

 鳥居の先に鳥見霊畤の石碑があり、近くのベンチのそばなどに
サツキやツツジの返り花が咲いていました。

 また展望台からは、墨絵のような冬の雲の下に、宇陀や吉野の山並みと、
眼下の榛原の市街がみえました。

       鳥見霊畤の丘に皐月の返り花   常朝

       宇陀の山墨絵のごとき冬の雲   常朝

         (鳥見山公園の休憩所)        
         (鳥居)
         (鳥見山中霊畤の石碑)
         (鳥見霊畤の説明板)
         (展望台から榛原の市街)

 その後、桜井市のココスで昼食をいただいたあと、
JR三輪駅の南東1キロ、大和川(初瀬川)の岸にある仏教伝来の地を訪ねました。

 最初計画した中和幹線の側道からの道は車では行けず、
川の北側の199号線を東へ進み、井戸建設の向かいの道に右折して川岸にでました。

 4台位の駐車スペースがあり、大きな「仏教伝来の地」の石碑があります。
下流側は堰があり、音を立てて落ちる水の先にアオサギが一羽立っていました。
上流側は公園になっており、小野妹子が裴世清(はいせいせい)と共に帰国したとき、
大和川をさかのぼってきた船から降りた二人が、75頭の儀仗隊の馬で迎えられた
ことにちなみ、陶製のかわいい飾り馬(子馬)が10頭ほど、並んでいます。 
土手に万葉集の歌(歌垣など)の説明陶板もあります。

 葦やすすきが美しい堰上のゆるい流れに、カルガモやマガモが数羽ゆったり泳いでいました。
 
       仏教の着きし川の辺鴨来たる    常朝

       子馬像並ぶ川の辺冬紅葉      常朝

         (仏教伝来地の碑)        
          (仏教伝来地の説明板)
         (仏教伝来地公園の馬)
         (仏教伝来地公園の飾り馬)
         (仏教伝来地公園)
         (仏教伝来地公園の堰)

 川岸の桜紅葉やハナミズキの赤い実などを見て、再び桜井市街に戻り、
天平庵で小句会後解散しました。

結局太陽は見えないままでしたが、深まる秋の古い大和の地や珍しい
仏教伝来地の公園などを楽しめた一日でした。

2015年11月7日土曜日

224. 笠置寺、夜支布山口神社から円成寺

「アカシア紀行・俳句」2015年11月6日(金)    前へ   次へ

 秋も深まりゆく11月上旬の一日、いつものメンバー6人で、
紅葉狩として奈良・笠置寺から柳生の夜支布(やぎう)山口神社、円成寺を訪ねました。

 笠置寺は、奈良時代から大岩の磨崖仏を本尊にし、東大寺二月堂の
お水取り行事の起源にもなった実忠和尚ほか高僧の修行の場、信仰の寺として
栄えたが、1331年元弘の変で御所を脱出した後醍醐天皇と鎌倉幕府軍との戦いで
全山焼亡後、明治に丈英和尚により再興されたとのことです。

 寺へは笠置町の郵便局の南約200メートルに登山口の門のある急な坂道を登ると、
30台位の駐車場(駐車料500円)があります。
そこからさらに100メートルほど登ると旅館・松本亭の前の石段から笠置寺の境内で、
受付で入山料300円を納めて、磨崖仏のある岩場へ歩きました。

 正面奥には正月堂があり、その左側に高さ15メートル程の大岩の弥勒菩薩の
磨崖仏があります。お堂のそばには大きな楓紅葉が一樹あり、白い岩肌に映えていました。
しかし弥勒菩薩のお顔は火災などで剥がれて殆ど見えなくなっており、X線撮影で
復元塗布した像を撮影した写真が正月堂に祀られていました。

 さらに下へ降りるとお顔がはっきりわかる虚空蔵菩薩の磨崖仏や
実忠和尚が修行したという千手の屈やが岩のすきまを潜る胎内くぐりの岩場があります。

 受付奥の右手には、木に取り付けたコウモリの巣箱があったようですが、
私は気が付きませんでした。

 境内の紅葉の程度はまだ半分くらいでしたが、周囲の岩や木々の緑に映えて
爽やかな美しさを見せていました。

       磨崖仏高し笠置の紅葉かな     常朝

       雉飯もありし笠置の薬喰      常朝

         (笠置寺入口:クリックで拡大:以後同じ)    
          (笠置寺受付)
         (笠置寺本坊)
         (弥勒菩薩の磨崖仏)
         (正月堂)
         (復元された弥勒磨崖仏の写真)
         (虚空蔵菩薩の磨崖仏)
         (松本亭レストラン-かさぎ「鹿鷺」)

 その後、松本邸でキジ釜飯をいただいたあと、柳生へ戻り、夜支布山口神社を
訪ねました。
大柳生交差点の少し北の消防署分署から東側の道を1キロ程南下した
山懐にある神々しい雰囲気の神社です。
楓は数本ありましたが、まだ青葉か薄紅葉で、南天の実が赤く輝いていました。

 社務所の軒には後醍醐天皇の御製遺蹟の額が掛かり、薄れて読みにくいですが、
笠置山から宇治方面へ落ちられたとき、近くの一本松で休まれてつくられたとされる
御製の短歌が、古蹟図と共に書かれています。

  さして行く 笠置の山を 出でしより 天が下には 隠れ家もなし  後醍醐天皇

  いかにせん たのむ陰とて 立ちよれば なお袖ぬらす 松の下露  万里小路藤房

 同じ絵馬の続きに牛若丸誕生の古蹟とありますが、薄れて字が読めないので
インターネットで調べると、この神社の北西300メートルほどの川沿い遊歩道に
道を覆う小さな「常磐の森」があり、そこで常盤御前が産気づいて、土地の長谷川金右衛門の
援助で牛若丸を産んだとのこと。後に義経からもらった棒術の流儀が柳生藩の長谷川棒術の
始まりだそうです。

 数年前訪ねたときイモリのいた池は落ち葉や芥で動いているものが見えません。
境内の青木の実はまだ青く、葉に雨蛙が一匹止まっていました。
 
       御製額社務所の軒に冬隣      常朝

       裾のまだ青き紅葉の見事なる    常朝

         (夜支布山口神社:やぎうやまぐちじんじゃ)  
          (イモリのいた神社の池)
         (御製と古蹟の奉額)

 その後、369号線に戻り、円成寺を訪ねました。
ここは5年前の早春、月ヶ瀬へ行く途中立ち寄りましたが、今回は紅葉のおかげで
境内は華やかです。(参照:アカシア紀行98

 楓の紅葉が進み、ウメモドキの実と共に緋鯉が遊ぶ池に映えていました。
特に裾のほうがまだ青葉なのに上の枝が紅葉している木は、
紅葉の度合いが程よくて見事な美しさです。

 池の小さな中の島には草雲雀が高い声で鳴いていました。
境内の売店では餅などと共に松茸(3本5000円)を売っていました。
店の右手の「ばったんこ」が、音と共に日に光る水を落としていました。

       中の島はここよと鳴けり草雲雀   常朝

       山寺の光も落しばつたんこ     常朝

         (円成寺の庭園)    
         (円成寺の山門)

 奈良への帰り道にある植村牧場の「いちづ」に立ち寄り、小句会後解散しました。
深まる秋の笠置・柳生の紅葉と自然をゆっくり楽しめた一日でした。